夫婦ごっこ
「義昭さん、なんでこれ毎日するの?」
「嫌?」
「嫌じゃないけど……」
「僕は奈央さんに甘えてもらえて嬉しいし、奈央さんは僕を惚れさせるチャンスだし、いいこと尽くしじゃない?」

 そんなチャンスを与えられている気がまったくしない。いつも奈央だけが翻弄されて終わる。突然始まったこの過度な接触に普通でいられるわけがなくて、奈央は毎晩強烈な胸の疼きに耐えている。まるで拷問を受けているような気分だ。好きな人に構ってもらえて嬉しくないわけないが、さすがにこれが毎日続くと奈央はもうおかしくなってしまいそうだ。こんな溺愛みたいな真似をされたら、理性を全部捨てて縋りつきたくなってしまう。自分を愛してくれと叫びたくなる。そんなことをして義昭に負担をかけるようなことはしたくないというのに、義昭はちっとも手加減してくれない。

「でも、さすがに毎日これは……」
「奈央さんが僕から離れてる間、ずっと淋しかったんだよ。奈央さんがそばにいてくれるって実感させてよ」

 その言い方は卑怯すぎる。そんな罪悪感を呼び起こす言い方をされたら頷くしかないではないか。義昭とすぐに向き合わなかったことを後悔しているから、そこを突かれると弱い。全面的に義昭の言うことを聞かざるを得なくなる。

「……うん」

 結局奈央は小さく頷いて、また義昭のされるがままになってしまった。奈央が降伏すれば、義昭はそれはそれは嬉しそうに微笑み、また奈央の頭を優しく撫でてくる。極上の甘い時間が始まってしまった。
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