夫婦ごっこ
「奈央さん。僕もね、僕も奈央さんが好きだよ。奈央さんを心から愛してる。もう僕の心は奈央さんでいっぱい。奈央さんが大好き。すぐに伝えられなくてごめんね? 待たせてごめん」
「え? ……え?」

 これは難問の謎解きだろうか。義昭の言葉がまったく理解できない。こんなふうに突然好きだと言われても信じられるわけがないだろう。義昭は恋愛感情を持っているわけではないと奈央は先程結論付けたばかりだ。好きだと言われても、愛していると言われても、素直には受け取れない。何か裏があると思ってしまう。いったいどういうつもりで言っているのだろうかと必死に考えてみるが何も思い浮かばない。奈央はもう自分一人では答えを導きだせなくて大混乱に陥っていた。

「奈央さん? 大丈夫? ちゃんと理解できてる?」
「好きってそれはどういう……」
「同じだよ。奈央さんと同じ。ただの家族としての好きじゃない。友情でもない。いつもいつも奈央さんのことばかり考えて、奈央さんのことを想うだけで胸が締め付けられて、奈央さんに触れたくてたまらなくなる。そんな好きだよ」

 確かに同じだ。奈央も義昭のことばかり考えてしまうし、義昭のことを思うと胸が締め付けられるし、義昭に触れたい気持ちもある。だが、果たして本当に同じなのだろうか。恋愛対象でなくても同じ感情を持つことはあるかもしれない。それこそペットに似たような感情を抱けるのではないだろうか。やはりペット要員と考えるほうが納得がいく。そう思ったら、その言葉が口をついて出た。

「……ペットみたいな好きじゃないの?」
「え? いや、そんなわけないでしょう? ちゃんと恋愛対象として奈央さんが好きだよ。確かに奈央さんはかわいいけどそれだけじゃない。ただ、かわいがりたいだけの人じゃない。僕は頼りがいのある奈央さんにも惚れ込んでるんだよ? 奈央さんは僕にとって一緒に支え合って生きていきたい人なんだから」

 そう言われると確かにペットとは違うのかもしれない。けれど、彼の好きを受け入れるにはまだ足りなかった。二人の間に立ちはだかる大きな壁、彼の本来の想い人である慶子のことが解決しない限り、受け入れられるはずがない。
< 154 / 174 >

この作品をシェア

pagetop