夫婦ごっこ
「奈央さん、お待たせ」
「……うん」
「大丈夫? 無理はしなくていいよ?」
「大丈夫。無理してないから」
「そう、わかった。僕も初めてだから上手くはできないかもしれないけど、奈央さんが少しでもいいって思えるように頑張るからね」
「ありがとう、義昭さん。でも、義昭さんとなら大丈夫だよ」
「そっか。じゃあ、奈央さんのことこれでもかってくらい愛するね」
「うん、私も」

 二人とも初めての行為だったから、ちっともスムーズではなかったと思う。相手のいいところどころか自分のいいところもわからない。終始手探りの行為だった。

 でも、これまで一緒に過ごした日々で少しずつ互いのことを知って、心を許し合ってきたから、自分をさらけ出すこの行為にも戸惑うことはなかった。喜びが膨らんでいくだけだった。自分の想いも相手の想いも強烈に感じて二人は心の奥底から深く交わった。

 最後には二人とも泣きながら笑っていた。好きな人と肌を重ねられる喜びに、ありのままで求め合える幸福に泣かずにいられなかった。笑わずにいられなかった。初めてつかんだ幸せに奈央の心はこれ以上ないほどに満たされた。本当に人生で最上の時間だった。
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