夫婦ごっこ
 想いを確かめ合った奈央と義昭は毎日毎日飽きることなく、愛を伝え合う日々を送るようになった。二人ともずっとずっと我慢していたから、初めての両想いにきっとタガが外れてしまったのだろう。とても人には見せられないくらい甘い時間を過ごし、奈央はすっかり義昭に甘える癖がついた。とても濃密な時間を過ごしている。

 しかし、それは二人きりでいるときの話だ。外に出れば今までと変わりない二人で過ごしている。今日も奈央と義昭は恒例の謎解きイベントに出かけたが、きっと周りから見れば夫婦ごっこをしていたときの二人と大して変わっていないだろう。


「あ、生方さん。また会いましたね。今日も仲よくご夫婦で参加ですか?」
「はい。妻と私の共通の趣味ですから」

 話しかけてきたのは謎解きイベントでよく顔を合わせる山口という男だ。義昭は奈央と出会う前から顔見知りだったようだが、奈央は義昭と一緒に参加するようになってから初めて顔を合わせた。

 義昭と山口が言葉を交わす中、奈央はかしこまってお辞儀などしていたが、内心では義昭から出た『妻』のワードに反応しないよう必死に耐えていた。奈央は毎度このワードに反応しそうになる。夫婦ごっこをしていたときはちっとも気にならなかったのに、本物になってからは自分がそういう存在なのだと実感して嬉しくなってしまうのだ。

 奈央は緩みそうになる顔を必死に引き締めていたが、謎解きが始まればそれは意識せずとも自然と引き締まった。謎解きにだけ集中し、義昭と二人で知恵を出し合いながら解いていく。その二人の連携ぶりに周囲の人間は感心しているが、当人たちはそのことには気づいていない。二人は驚異の集中力と連係プレーですべての謎を見事に解いていった。
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