夫婦ごっこ
「問題なのは自分の恋心だけです。だから、その想いさえ隠してしまえば、そういうパートナーを見つけることは可能なのかもしれません。ただ、それだと相手を騙し続けることになるし、自分も騙し続けなければならない。そんな状態で誰かと一緒にいてもきっとつらいだけです。でも、私とあなたなら、同じ痛みを抱える者同士なら共に過ごすことができると思ったんです。本当の夫婦になりたいわけじゃない。ただ人生を一緒に過ごす仲間になってほしい。完全に私のエゴだとわかっています。でも、誰かと一緒に過ごすなら、あなたがいいと思いました。この三ヶ月本当に楽しかったから」

 奈央だって義昭と過ごしたこの三ヶ月はとても楽しかった。これからも友人関係を続けていきたいと思っている。だから、奈央と一緒にいたいと言ってくれること自体は嬉しい。恋愛感情抜きならいいパートナーになれるとも思う。

「お互いの好きな人はそのままでいいんです。そこを求めているわけではありません。性的接触もしないと誓います。家族としての思いやりを持って一緒に過ごしたいだけです。ちゃんと大事にします。だから、私の提案に乗ってくれませんか?」
「……言いたいことはわかりました。でも……」

 大事にすると言った言葉もきっと本心だろう。同意すればそれなりに幸せな日々を送れるに違いない。でも、これは簡単に頷けるような話ではない。一番大事なところを抜きにした関係がそう簡単に上手くいくとも思えない。下手に夫婦関係を結んで、二人の関係に傷がつくようなことになったら嫌だ。義昭はもう奈央にとって大事な友人なのだから。

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