夫婦ごっこ
「義昭さん、嫌なときは言ってね? ごっこなのにこんなにベタベタ甘えて、自分でもよくないってわかってるの。でも、義昭さんのそばに行きたくなって……」
「奈央さん。嫌なときなんてないから心配しなくて大丈夫だよ。甘えてくれてすごく嬉しいから。奈央さんに甘えてもらうのは僕の権利だからね」
「ふふ、権利なの? じゃあ、義昭さんが甘えろって言ったら、私は甘えないといけないの?」
「そうだね。無理強いはしないけど、僕が甘えてって言ったときは素直に甘えてくれると嬉しいな」

 奈央が甘えやすいようにこう言ってくれているのだろう。本当にどこまでも優しい人だ。義昭といて嫌な気持ちになったことなど一度もない。いつも救われてばかりだ。

「義昭さんはいつもいつも優しいね。ありがとう。義昭さんのおかげでもう苦しくないよ。本当にありがとう、義昭さん」
「どういたしまして。でも、僕は自分のしたいようにしてるだけだから、奈央さんは今の奈央さんのままでいればいいからね?」
「もう、そんなんだから、こうやって私に付け込まれるんだよ」
「案外逆かもしれないよ?」
「え?」
「奈央さんが甘えてくれるように僕が誘導してるのかもしれない」

 そんなことあるわけがない。そんな誘導したところで義昭に何のメリットもないだろう。でも、そこまで言ってくれるのなら、否定するよりも乗っかってしまったほうがずっといい。奈央はこのまま甘えていられるし、義昭にはこれ以上優しいことを言わせなくて済むだろう。
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