夫婦ごっこ
　さらに夜になれば、奈央はダメだとわかっていながらも、しばしば義昭のぬくもりを求めるようになっていた。さすがに毎日そうしているわけではないが、三日に一度くらいの頻度では求めている。

「あの、義昭さん……」
「おいで？　甘えん坊さん」
「またからかう……」
「ごめん。おいで？　奈央さん」

　もう何も言わなくても義昭は察して、奈央を自分のベッドに招いてくれる。そして、奈央のことをそっと優しく抱きしめてくれるのだ。

　奈央はこの抱擁に弱い。こうして義昭のぬくもりを感じると深く深く安心する。自分がここに存在していてもいいのだとそう思わせてくれる。

　義昭は絶対に奈央を拒否するようなことはしないから、どんどん奈央の甘え癖に拍車がかかっている。本物の夫婦でもないのにこんなに甘えてはいけないと本当はわかっている。でも、もう奈央はこのぬくもりを手放せそうにないのだ。それが奈央の精神安定剤になっていて、なくなってしまえば奈央はまともでいられなくなるかもしれない。きっともう自分から義昭と離れるようなことはできないと思う。
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