夫婦ごっこ
 それからどのくらいの時間が経ったのだろうか。不意に後ろから声をかけられ、驚いて振り返れば、楽しそうな笑みを浮かべた義昭がそこに立っていた。

「奈央さん、少しついてきてくれる?」
「え? うん」

 大人しく義昭についていくとある商品の前へと誘導された。きっと奈央一人なら絶対にスルーしている商品だろう。

「奈央さんは結構こういうの似合うんじゃないかな」
「え? これ?」

 義昭が示したのはパステルピンクのロング丈のプリーツスカートだった。

 奈央が普段着ている服装からは随分とかけ離れている。奈央は職場でもプライベートでも割とクールな印象を与える服を着ることが多い。パンツスタイルでいることがほとんどだし、スカートを履いたとしてもそれはタイトなものがほとんどで、あまり柔らかい印象のものは持っていない。色も黒や紺など濃い目のものを好んできている。そういう服装が好きだというのもあるが、自分に似合う服がそういうものだとも思っている。

 しかし、義昭が選んだその服は色も形も奈央が選ぶそれとはまったく異なっていて、奈央のイメージからは随分と遠かった。

「いつものクールな印象のものも似合ってるけど、淡くて優しい色合いも似合うと思うよ」
「え、そうかな?」
「騙されたと思って一度試着してみない?」
「うーん、じゃあ、そうしてみようかな」

 自分に似合うとはまったく思えないが、着てみるだけならまあいいかと奈央は素直に従った。

 義昭にこれも似合うだろうからと少しクリームがかった白のトップスも渡され、奈央は先程のスカートと合わせて試着してみた。どうせ残念な結果になると思いながら、試着室の鏡で己の姿を確認してみれば、そこには普段の服よりも遥かに見栄えのよくなった自分が映っていた。
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