夫婦ごっこ
「え、嘘。本当にいい」

 自分で目にしてなお信じられないが、ものすごくしっくりとくる。普段着ている色よりもずっと自分に似合っている。こんな淡い色、しかもピンクなんて絶対に自分には似合わないと思っていたのだが、それは思い込みだったようだ。人生で初めての大発見に奈央はしばらく鏡から目が離せなかった。

 いろいろな角度から自分の姿を確認し、義昭のセンスに感心しきったところで、奈央は試着室のカーテンを開けた。義昭にもちゃんと見てもらおうと思ったのだ。

「義昭さん?」

 背を向けていた義昭に声をかけると義昭は振り返ってすぐに嬉しそうに微笑んでくれた。

「あ、やっぱり。よく似合ってるね。奈央さん、自分で思わない?」
「思った」
「でしょ?」
「うん。でも、ずっとこういう服は似合わないと思ってた」
「普段の服装はしっかり者の奈央さんのイメージにピッタリだけど、奈央さんは優しい顔立ちだからこういう服も似合うと思ってたよ。それに僕と一緒にいるときの奈央さんは今みたいなイメージだからね」

 そんなイメージを持たれていたとは驚きだ。今の服装はとても柔らかい印象を与えるものだ。奈央はどちらかというと世話を焼くタイプだし、職場でも強いイメージを持たれることが多い。真反対とまではいかないが、自分の普段のイメージからはかなり遠いと思う。由紀みたいな大人しくてかわいい女性こそこういうイメージではないだろうか。

「こんな柔らかいイメージなの?」
「そうだよ。優しくて柔らかいイメージ」
「由紀ならわかるけど、自分にこういうイメージはないな」
「奈央さんはすごく柔らかいイメージだよ」

 自分ではピンときていないが、今の服装は確かに奈央によく似合っているし、義昭に柔らかいイメージと言われるのは嬉しかった。義昭だけが奈央も知らない本当の自分を見出してくれたような気がしたのだ。もしかしたら奈央が義昭にだけ甘えられるのも、そういう自分を義昭がすくい上げてくれているからなのかもしれない。なんだか誰よりも奈央のことをわかってくれているようで本当に嬉しかった。
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