妖帝と結ぶは最愛の契り
 たとえ望んでいなかったとしても、腹の子は父にとって孫にあたる。
 それを平然と『殺す』などと……。

「なんだその顔は? 利用することも出来ぬ妖の孫などいらんぞ。大体、お前の異能とて妖に勝手に植え付けられたものらしいではないか」
「え?」

(異能を植え付けられた?)

 父は何を言っているのか。
 理解出来ない美鶴に、今度は碧雲が語りかける。

「弧月に印を与えられただけの憐れな娘。その異能のせいで蔑ろにされ続けてきたのだろう? 自分を不幸にした男の子など産まずともいいのだぞ?」
「何を⁉」

 振り返り見た顔には先ほどまでとは打って変わって憐れみの色が見える。
 その変わりように言葉を続けられずにいると、碧雲は続けて話し出した。

「弧月のように強い妖力を持ってしまった妖には子が出来ぬ。その妖力を受けきれる姫がおらぬからな」

 弧月が以前話してくれた受け皿の話だろう。
 強大な妖力を受け止め子を成すために必要な妖力の器。

「だからそのような強い妖は、妖力を持たぬ人間に自身の力を分け与え(つがい)の印を刻むのだ」
「番の印……?」
「そう、それが異能として現れる」
「っ⁉」

 はじめて聞く話に、美鶴だけではなく小夜たちも驚きの表情で固まっている。
 妖の貴族の間でも知らぬ者が多いということだろう。
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