妖帝と結ぶは最愛の契り
「で、でも、私と弧月様は大門の火事のときに初めてお会いしました。いつ印を刻んだというのですか⁉」

 有り得ないと反論しようとするが、碧雲は何でもないことのように答える。

「さて、いつであろうな? 大方お前が母の腹にいるときにでも牛車ですれ違ったのだろう」
「なっ⁉」

 あまりにも大雑把な答えに絶句する。
 だが、碧雲は別にふざけているわけではないようだ。

「この答えは不服か? だが実際そういうものだ。番の印は無意識に刻んでしまうものらしいからな」
「無意識に……」

 繰り返し呟きながら思う。
 無意識にというのであれば碧雲の言った通りすれ違っただけということもあるのだろう。

「帝や東宮にだけ語り継がれる話だ。奴が東宮になった頃は先代妖帝の父は病床であったし、私も話してはいないから弧月は知らぬはずなのだがな。よくまあ自力で見つけ出したものだ」

 少し呆れを含ませた碧雲の言葉を聞きながら、美鶴は呼吸を乱した。
 どくどくと、早まった脈の音が耳奥に響く。

(今の話が本当なら、私の異能は弧月様に与えられたということ?)

 異能があったせいで両親から愛されなくなり、周囲の人達からも異様なものを見る目を向けられていた。
 異能がなければと何度呪ったことか。

 その異能を与えたのが弧月だというならば、恨みを抱いてもおかしくはないだろう。
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