妖帝と結ぶは最愛の契り
 だが弧月と出会い、必要とされ、愛されることで逆に異能を持っていて良かったと思うことが増えた。
 大切な子も出来て、幸福を知った。

 その幸せを与えてくれたのも弧月だ。

 恨みたい気持ちと愛しい気持ちが水と油のように混ざり合うことなく共に渦巻いている。
 どうしたらいいのか分からない。

 だが、続けられた碧雲の言葉にはっとする。

「お前を不幸にした男は始末してやる。腹の子も産まれたら処分してやろう。事情を知ったお前の父は前とは違いお前を必要としている。迷わずあるべき場所に戻るといい」
「っ⁉」

 憐みの言葉。
 だが、その言葉に美鶴は強い拒絶を覚えた。

(弧月様を始末する? 子も産まれたら処分する? 父さんが、私を必要としている?)

 弧月が死ぬのも、子が死ぬのも駄目だ。絶対にあってはいけない未来だ。
 それに、父が必要としているのは愛する娘ではなく病んだ母の世話をする道具としての娘だろう。
 腕を掴む容赦のない力強さからも、優しさなど欠片も感じられないのがその証拠だ。

(この子を守らなくては)

 迷いようもない子を守りたいという気持ち。
 その純粋な強い思いを自覚して、全ての迷いが吹き飛んだ。

 不幸の原因である異能を与えたのが弧月だとしても、死ぬ運命だった自分を救いあげ愛してくれたのも弧月だ。
 自分を不幸にしようという意図を持って番の印を刻んだわけではないのだから、そのことを責めても仕方のないこと。
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