妖帝と結ぶは最愛の契り
「我が儘言わないで姉さん! 本当に殺されるわよ? 私たちは家族として助けてあげようとしてるんじゃない」

 つい先ほど病んだ母の世話をしろと言った口で恩着せがましいことを言う春音に呆れる。
 生まれたときから見ているのだ。どちらが本音なのかは問い質さずとも分かる。

「これ以上失望させるな! 前までと違って今はお前を必要としてやっているんだぞ⁉」
「い、やっ!」

 抵抗するが、怒り出した父の力は強く春音も加わった。
 重い衣を纏っていても引きずられてしまう。

「美鶴様!」
「美鶴様を離しなさい!」
「おやめなさい! 連れてなど行かせません!」

 灯と香、そして小夜が叫ぶ。
 だが、三人の前には碧雲が立ち塞がった。

「お前たちこそ邪魔をするな。あまりに煩いと貴族の娘であろうと始末するぞ」
「くっ!」

 碧雲の圧に三人は動けない。
 このまま連れ去られてしまうのかと思いかけたそのとき、父と春音の袖に青い炎が突如現れた。

「ひっ⁉ 何だ⁉」
「やだっ、熱いっ!」

 炎に驚き美鶴を離した二人は床に伏し火を消そうとのたうつ。
 その様子を驚き見ていた美鶴の耳に、愛しい声が届いた。

「俺の妻をどこに連れて行くつもりだ?」

 静かで冷ややかな声音。
 怒りを内包した声はそれほど大きな声でなくともその場に響いた。
 直後に美鶴の身を包んだ腕は温かく、怜悧な声とは裏腹に優しい。

「弧月様……」

 必ず来てくれると信じていた存在の登場に、美鶴は安堵の息を吐いた。
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