姐さんって、呼ばないで

「へぇ~、鎌倉とか山に行かずに、海のそばにもこんないい所があるんだな」
「ここ、結構有名なのに穴場らしいです」
「駅から歩くからタクシー使ったってわけね」
「はい」

小春が連れて来てくれたのは、『三渓園』という日本庭園。
映画やドラマ、CMでも多く使われているらしく、室町・江戸時代の重要文化財や歴史的建造物があちこちに点在している。

少し早取り的な紅葉だけれど、雰囲気は十分。
夕焼けに彩られた木々が美しく、一年前の紅葉デートを思い出してしまった。

あの日も小春は木々を眺め、俺に微笑んでくれた。
けれど、そんな笑顔の裏に、一筋の影が差す。

夏以降ここ数か月、小春に分からないように護衛をつけている。
元々は俺の自宅を張らせていたのだが、俺の自宅に小春が来て以来、彼女の周りをうろつく存在に気付いた。

どこかの組の仕業だと思っていのだが、どうも違うらしい。
マークしている組と繋がっている感じはこれまで一度も感じられない。

組内部の人間の差し金かと考え、ボロが出るようにあれこれ仕掛けているが、一向にその姿が明らかにならない。

今日一日小春とデートをしていて、何度となく視線を感じた。
けれど、殺気というほどのものじゃない。
かといって、放置できるものでもない。

鉄にメールを送り、遠くから俺らを監視して貰っている。
『二十メートルほど離れた位置に男女がいます』

中華街だと人が多すぎて、敵が誰なのか探し辛い。
けれど、本牧埠頭に程近い三渓園ならば、尾行する男女は探しやすいはず。

最終入園時間ギリギリに滑り込んだ俺ら。
帰り始める人々を逆に縫うように紅葉を楽しむ。

「寒くないか?」
「ちょっと寒くなって来ましたね」
「……これ羽織ってろ」
「えっ、大丈夫ですよっ」

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