姐さんって、呼ばないで
仁さんが羽織っていたコートが肩に掛けられた。
……あたたかい。
彼が着ていたぬくもりを感じる。
そして、めちゃくちゃいい匂いがする。
ランドマーク的な三重塔。
映えスポットなのか、大型の三脚を立て、夕陽に映える塔や池越しの塔を撮影している人が結構沢山いる。
「仁くん、写真撮りたい」
「ッ?!……いいよ」
池越しの紅葉に埋もれる三重塔を背景に自撮りした。
うっわぁ、イケメンすぎる。
私の顔に寄せる彼の顔があまりにも美しすぎて。
思わず見惚れてしまう。
「俺に送っといて」
「あ、はい」
私の手元を覗き込んで来た彼。
近すぎる~~っ。
本当にイケメンすぎるのも目に毒だなぁ。
こんな美男子を振り回すくらい毎日一緒にいただなんて。
詠ちゃんから教わったことの一つ。
『あの若頭を小春は毎日たじたじにしてたよ~っ』
そんなありえない状況を実証するかのような彼の態度に、少しずつ芽生え始める感情がある。
今、彼と初めて出会ったとしても、こうして好きになって貰えたのだろうか?
ずっと一緒にいるから好きになって貰ったであろう関係性。
記憶がずっと戻らなかったら、別人の向坂 小春だと思うから。
それでも昔と変わらず、私を好きでいてくれるのだろうか?
「陽が沈んで冷え込んで来たから、帰るか」
「……はい」
彼のコートを私が羽織っているのに、彼の手の方があたたかい。
しっかりと握られる手をぎゅっと握り返した、その時。
ヒューッと冷たい風が肌をさしたと同時に、真っ赤な紅葉が一瞬脳内を過り、次の瞬間に血まみれの彼に抱きしめられている感覚を思い出した。