姐さんって、呼ばないで

初詣の帰りに自宅に寄って、久しぶりに両親と食事をする。
『もうすっかりお嫁に出したみたいよね』だなんて母親が言う。

昔から、私の両親は彼に全幅の信頼を寄せている。

「仁君、来月末の件なんだが…」
「……分かってます。小春の身の安全が第一なので」
「すまないね」
「いえ、こちらの方こそ、配慮が足りず申し訳ないです」

二月末に私の誕生日がある。
本来であれば、その日が私たちの入籍日のはずだった。

けれど、私が記憶を失っていたことで未だに結納もしていない。

両親には記憶が戻ったことを伝えてあるが、脅迫されたことを未だに伝えていない。
何となく気付いているみたいだけど、知らせたからと何かが変わるわけでもなく。
仁くんと話し合って、あえて伏せることにした。

壊れていたスマホのデータは復元され、それも彼に預けてある。
私が持っていても役に立たないし、『危険因子は俺が預かる』と彼が言うから。

ピリリリリッ……。

「悪いね、急患のようだ」

時間外診療用のスマホが鳴る。

「はい、向坂医院です」

父親が電話に出ると、母親がすかさずメモ用紙とボールペンをスッと差し出した。

「小春、お母さんたち仕事だから、そろそろ」
「あ、うん」
「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「ごめんなさいね、慌ただしくて」

いつものことだ。
両親は患者さんが第一。
どんなに疲れていても、それを顔に出したりしない。
そんな両親だからこそ、命の大切さや人の尊厳が何より大事なのだと教え込まれた。

「仁くん、行こ」
「……あぁ。お邪魔しました」

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