姐さんって、呼ばないで
ヤキと手打ちと、落とし前
一月上旬。
新年が明け、数日が経った。
年末から三が日まで、挨拶回りの筋者がひっきりなしに来る。
桐生組は極道の頂点に立つような組織なだけに、傘下に入る組を束ねる以上、年始の挨拶は欠かせない。
若頭として、不在にするわけにもいかず。
同じ敷地内に小春がいると分かっていても、逢いに行く暇すら無い。
小春はというと、猫のてまりと遊んでいる様子。
テカが逐一報告してくれるのが、唯一の救い。
紙爆弾のこともあって、敷地から出してやれず、申し訳なさが募る。
一月五日。
漸く組の仕事も落ち着き、ホッと胸を撫で下ろす。
「小春、初詣に行くか?」
「えっ?!」
「ごめんな、元旦じゃなくて」
「元旦じゃなくても、今年初めて参拝するのが初詣じゃない。それに、空いててゆっくり参拝できるよ」
「……そうだな」
今年が初めてなわけじゃない。
今までも年末年始は多忙過ぎて、いつも初詣は五日頃になっていた。
「帰りにケーキでも買って、家に寄ろうな」
「うん!」
年末年始は一応休診扱いになっているが、小春の両親の病院は、開院以来、休日も時間外の急患を受け入れている。
直通の携帯番号に事前に連絡を入れておくと、緊急の診察をしてくれるのだ。
テカ数人を共に連れ、近くの神社に初詣。
「仁くん、おみくじ引こっ」
「はいはい」
久しぶりの外出だから、テンションが高めな小春。
目でシケ張りしとけ、と指示を出す。
俺達から少し距離を取りながら、周りを見張る鉄と数人の組員。
カジュアルな格好をしていて、パッと見、組の者だとは分からない。
一般参拝客に紛れ、仁たちを護衛している。