姐さんって、呼ばないで

小春と初めて大げんかした、あの日。
二つ年上の高田組のお嬢に気に入られてしまい、頬にキスされたのをほろ酔い気分の親父が口走ったのが原因。

突然の出来事で避ける隙がなかったのだが、隙を与えてしまった時点で小春に対して申し訳なさが募って。
浮気したつもりはなくても、彼女を悲しませる原因を作ったのが俺なら、結果的に同じこと。

だから、あの時。
俺は小春に『ごめん』と謝った。

そして―――。

チュッ。
小春の額に口づけを。

あの日を思い出して欲しくて。

仲直りの意味も込めて。
知らない女ではなく、俺は小春が好きなのだと伝えたくて。

「っっっ……あのっ」

小春は顔を真っ赤にして、手の甲で口元を覆いながら。

「おでこじゃ……ないですよねっ」
「ッ?!!」

思い出したのか?
あの日の、アレを。

俺はあの時、今みたいにでこチューしたんじゃない。
アレは、俺らの初めての『キス』だから。

全開に照れているということは、思い出したのだろう。
あの時の俺のとった行動を。

「していい?……もっと思い出すかもしんないし」
「っ……、し……てみて…下さいっ。……思い出せるかも」

照れ隠しで顔を背けた小春。
再会した日の背けた顔とは全くの別物。

俺をちゃんと『桐生 仁』だと理解している顔だ。

スッと指先を後頭部に滑らせる。
そんな俺を必死に受け入れようと、小春はぎゅっと目を閉じた。


久しぶりに交わしたキスはぎこちない。
震え気味の小春と緊張している俺。

けれど、唇の感触はあの日と全く同じで、凄く柔らかく温かかった。

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