姐さんって、呼ばないで
色んな味のお好み焼きを作った仁は、最後にうどんを入れたものを作り始めた。
中華麺を使った広島風はよく目にするが、うどんを入れるお好み焼きはあまり見かけない。
揚げ玉や紅生姜といったものは定番だが、焼きうどんを躊躇なく入れる仁に、周りの班の子たちも興味津々で集まり出した。
「すっっっごッ!めっちゃワイルド」
「俺も食いてぇ~~っ」
「ってか、仁さんの腕、ぱね~~っ!」
「うぉっ、マジすげぇ!筋肉ヤバいっすね」
「……そーか?鉄の方がすげーぞ」
「見るか?」
腕まくりした鉄。
仁の前腕の筋肉も隆々で見事だが、鉄の前腕は腕自体が一回り太い。
「空手とボクシングしてるんで、腕は結構いい仕上がりっすよね?」
「あぁ。うちの組でも、パンチ力じゃ、鉄は三本指に入る」
「うっわぁーッ!かっけぇ~~っ!」
シャドウボクシングのポーズをする鉄。
周りにいる女子がキャァと黄色い悲鳴を上げた。
「仁さんの右腕だもんね、鉄さん」
「……」
詠ちゃんがぼそっと呟いた。
若頭を守るために、鉄さんは日々鍛錬でもしてるのかな。
極道のイメージは喧嘩や乱闘とかしか思い浮かばないけど、きっと彼らはそういう世界の中で生きてるわけじゃないと思う。
桐生組本宅の敷地内にいる彼らは、如何にも農作業や土建業をしてる感じの人たちだったし。
何より、血生臭い感じは一度だってない。
それによく映画で観るような、指を詰めた(切り落とした)人は一人もいなかった。
まぁ、指を詰める人が極道に残ってるはずないんだけど。
でも、信じたいと思ってしまう。
彼らは極道であっても、極悪な人たちではないのだと。