姐さんって、呼ばないで
写真の二人、相思相愛

七月下旬。
朝からじわっと汗が噴き出すほどの真夏日。
無事に期末考査試験を終え、夏休みに突入している。

「小春~、ちょっと下りて来て~」
「はぁ~いっ」

仕事前の母親に呼ばれ、二階からリビングのある一階に駆け下りる。
自宅横にあるクリニックは九時から診察が始まるため、八時半を過ぎたクリニックの駐車場には既に何台もの車が駐車されている。

「な~に、お母さん」
「あのね?……夏休みの間、桐生さんのお宅で小春を預かりたいって言ってるんだけど」
「え?」
「小春が嫌なら無理にとは言わないわ。日中は病院があるけど、朝晩はパパとママもいるし。何だったら、詠ちゃんでもうちに呼んでもいいしね」
「どうして急にそんな話になったの?」

夏休みに入って数日。
突然夏休みの間、私を預かりたいだなんて話になるのだろうか?

「本当はね、この夏に小春と仁くんの結納をすることになってたのよ」
「……結納」
「だから、今後のことも踏まえて、どうすべきか昨日そんな話になって」
「……仁さんは何て?」
「仁くんは、小春の判断に任せるって」
「……そうなんだ」

本来なら私の十六歳の誕生日に入籍するという約束になっていて、それに伴う前段階なのだろうけど。
完全に記憶が戻ってない状態で、いきなり結納をするわけにはいかない。

けれど私以外の人は、当然の流れというか、必然的なことなのかもしれない。

「分かった。仁さんの家に行くよ」
「いいの?」
「うん。みんないい人だし、少しでも記憶が戻るかもしれないし」
「辛くなったり、寂しくなったら帰って来ていいんだからね?」
「ありがと、ママ」

かくして、残りの一カ月ちょっとの夏休みを桐生組で過ごすこととなった。

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