姐さんって、呼ばないで


「本当にいいんですか?私、負けたのに…」
「デートしてくれた御礼。好きなの、頼んで」
「………じゃあ、遠慮なく」

バッセンを出た俺らは、近くのカフェに立ち寄った。
たらふくうどんを食べたはずの小春は、たった二時間でスイーツを食べようとしている。
細身の体のどこに入るのか不思議だが、昔から変わってないことが嬉しくて。

「お決まりでしょうか?」
「アイス珈琲と……小春は?」
「期間限定のオリジナルパフェを」
「アイス珈琲と期間限定のオリジナルパフェですね?少々お待ち下さい」

目を輝かせながらメニューを見る小春。
住宅地の中にあるこのカフェは結構穴場。
オーナーの焙煎技術が匠で、珈琲がかなり旨い。
それと、奥さんが作るスイーツが甘さ控えめで小春の好物でもある。

テイクアウトできないから、いつもこうしてバッセン帰りに寄っていた。

「お待たせしました。お久しぶりですね」
「……一年くらい来れなくてすみません」
「いえ、こうして来て下さるだけで嬉しいです。どうぞごゆっくり」

バッセンとセットで通っていたこともあって、俺らはここでも常連だ。

「ここにも、私よく来てたんですね」
「……ん」
「仁さんとデートすると、ドキドキわくわくな感じと、ちょっぴりスリリングで不思議な気分になります」
「……そうか」
「いただきます」

美味しそうに口いっぱいに頬張る小春を見つめ、記憶を思い出すことが彼女にとって苦痛にならなければいいなと切に願った。

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