姐さんって、呼ばないで
主寝室は木のぬくもりが感じられる造りで、テラスのような内庭的な空間が掃き出し窓の外側にある。
それだけでもお洒落なのに、ローベッドの周りやクロスに至るまでモデルルームのような美しさに息を呑む。
テラス部分へと行こうとした、その時。
カタッと何かが当たるような音がした。
「外に出てみるか?今、履物持って来るな」
慌てて寝室を後にした彼。
その彼がいた場所に視線を移すと、伏せられているフォトフレームが目に付いた。
すかさずその場へと。
「っ……」
カタッと音がしたのは、これを伏せた音だったようだ。
そこには、彼が自撮りで撮ったと思われる私とのキス写真が。
組の誰かに撮って貰ったものではなく。
寝室という、他の人の目に触れない場所に置かれた写真。
私と彼だけの秘密の写真なのだろう。
胸がズキンと痛む。
キスしている写真に衝撃を受けたからというわけじゃない。
彼がこんな風に、伏せてまで隠そうとした気持ちが何となく分かるから。
無理に記憶を取り戻して傷つかないように、私への配慮だ。
「ごめん、無かったからスリッパのま……」
フォトフレームを手にしている私を見据え、彼の表情が一瞬で歪んだ。
「ごめん、ちゃんと片付けておけばよかったな」
「……どうして?仁さんが謝ることじゃないですよ。むしろ、記憶を失った私が謝るべきで…」
「小春は何も悪くないっ」
「んっ……」
彼をこんなにも苦しませているのは私なのに。
一途に想って貰えていることが嬉しくて、ぎゅっと抱き締める彼のシャツを無意識に掴んでいた。
「私、愛されてたんですね」
「……今も、愛してるよ」
「っっっ」