姐さんって、呼ばないで
球技大会上のルールで、五回裏が終わった時点で、五点差でコールド勝ち。
五点差以内であれば、七回裏が終わった時点で試合終了。
同点の場合はタイブレーカーとなる。
仁のクラスの女子ピッチャーに対し、相手クラスは男子のピッチャー。
明らかに球が速いが、荒も多い。
よく見分ければ、ボールになることがかなり多いのが分かった。
「三球までは見送ってもアウトにはならねぇ。いいか、これは心理戦だ。うちのエースはコントロール重視。特に低めのカーブはキレがある。それに比べ、向こうは外角高めが多い。自信持って振り切れ、いいな!」
「「「うっす!!」」」
*
「朝霞、内角低めと内角高めのコースを投げ分けろ。あとは鉄のリードに任せればいい」
「……はいっ」
「紀子ちゃん、がんばろっ!」
「うんっ!」
三回表になり、マウンドに立つ紀子。
センターへと向かう仁とセカンドにつく小春が紀子を励ました。
*
五回裏の攻撃。
二対四で一歩リードの一年C組。
この回であと三点入れれば、コールド勝ち。
円陣を組んで仁が鼓舞する。
「雁首揃えて何やってんだ。いいか、遊びはここまでだ。こっからは全力でかかれ!」
「「「うっす!!」」」
「一年C組っ、カチコミだぁーっ!!!」
「「「おぉぉぉっっっ!!」」」
拳を空に突き上げた。
球速は劣っていないが、焦りが出ているのか、相手ピッチャーのコントロールが定まってない。
ワンアウト満塁。
長打が出れば、一気に片が付く。
バッターボックスには四番の仁。
ヘルメットの鍔を引き下げ、バットの先をピッチャーの頭上へと向けた。
ホームラン予告だ。
ピッチャーの腕が大きく円を描き、ボールが放たれた、次の瞬間。
カーンッ。
金属バットの芯を捉えた打球は、セカンドの真横を通り過ぎセンターにいる男子の十メートルほど右側を物凄い速さで突き抜けた。