氷の女と呼ばれた私が、クソガキ御曹司に身も心も溶かされるまで。
ものの数時間で全てを失ってしまった、この急転直下の事態を理解するのにしばし時間を要した。
阿良々木のいない私など、無一文でちょっと性格の悪い高身長美女でしかない。
呆然自失のままマンションのエントランスを出ると、恋のキューピッドが事前に手配しておいたらしいハイヤーが待機していた。
阿良々木の言う通り、家族も友人も恋人もいない私がこの国で頼れるのは、14番目の息子だけだ。
さながら抜け殻の如くフラフラとした足取りでハイヤーに乗り込む。
30分後には、苦い記憶がまざまざと残るホテルに戻ってきていた。
阿良々木とはよほど懇意の間柄なのか、今回もまた支配人自らホテルの玄関口に立ち、私を出迎えてくれた。
彼に案内されるままエレベーターに乗り、上階にあるスイートルームへと向かう。
先程は感慨深く思えた夜景も、2度目となると何の感動も生じなかった。
目的の部屋の前に辿り着き、支配人がドアをノックした段階になっても、私はまだ阿良々木に置き去りにされたショックから立ち直れずにいた。
ややあって、ドアの向こうから幼い子供の声で返事があった。
マホガニー製の分厚いドアが内側から開けられ、宗像シドがひょっこりと顔を出す。
私にとってそうであったように、彼にとっても私の再登場は予想外だったらしく、目を丸くしてこちらを見上げている。
ここまで来ると、私も腹を括るしかなかった。
子供の無垢な視線にさらされながら、食い縛った歯の隙間から言う。