天才魔法使いは意地っ張りな努力家魔女に恋をする

3話 誰もが認めてくれる中



初日からあれだけ目立ったにも関わらず、思ったより順調に滑り出せた。友達も何人か出来た。元々つるむタイプでは無いから、濃厚な付き合いはしない。気が向いた時に宿舎のロビーで、ちょっとした会話に顔を出す程度だけど、僕を快く迎え入れてくれる気の良い奴らだ。色んな人間がいることを、この学校の生徒はよく理解している。

部活動も盛んらしく、先生の勧めもあり僕も色んな部活に試しに参加してみたが、チームプレイが苦手な事にすぐに気付いた。全くパスを出さない僕にチームメイトは困り果てた。僕はどうやら1人できままに戦う方が好きみたいだ。色々と合う合わないも分かってきた。

一方で、やはり僕を好ましく思わない人はいるようだった。出る杭は打たれる。好成績を収めるにつれ僕は注目を浴びた。転校してきた理由もどこかから広まり、ここでもすぐに呼び出される事となる。腕っぷしのいい上級生たちは僕が調子に乗っていると判断した。

前の学校の事もあったから手は出さないようにと思っていたけど、この学校の先生は生徒同士のいざこざに深く関与しないらしい。とあれば、僕も好きなようにやらせてもらう。ちょいと魔法で威嚇してやると、相手はすぐに逃げ出した。

僕に敵う者はいなかった。あっという間に噂は広まり、直接喧嘩を売ってくる者はいなくなった。1番の支配者になりたかった訳ではないが、こうでもしなければ、延々とこの手の言い掛かりは続く。この一件で、学校生活はかなり快適になった。

その代わりに同級生たちは、どこか僕に気を遣うようになった。宿舎ロビーでの会話に混ざろうとすると皆、座れよとソファを空けた。


***

そんな中ただ1人、相変わらず僕に明確に闘争心を燃やしている人がいた。魔法学の選択授業で同じクラスになったあのオリビアだ。

これまでは、授業で活躍するのはいつも彼女だったらしい。それが、僕が来てからは、僕ばかりが目立つ。僕が先生に褒められる度に、遠くから痛い視線を感じる。振り返ると、いつも彼女がこちらを睨んでいた。その顔はまるで、鬼そのもの。目が合うと、彼女はフンと目を逸らす。ただ、オリビアが僕に復讐のような事をする気配は無かった。

だから僕はそんな彼女の姿を、密かに楽しんでいた。彼女の目の前で難しい魔法を使いこなしてみせ、わざと悔しがらせた。彼女も無視すればいいものを、いちいち顔を真っ赤にして怒る。その時の表情に、なぜかやみつきになる。

でも、それだけでは終わらないのが、オリビアの凄いところだった。僕が見せつけた技を、その場で必ず練習する。そして、僕の目の前で同じことをやってみせ、ふふんと笑うのだ。一生懸命僕を挑発しようとしているのは分かるが、心底嬉しそうにも見える。魔法が成功して、自分の杖を見て微笑むオリビアは、少し可愛かった。

僕は彼女に感服した。しかし素直に褒めているのに、僕にバカにされたと気を悪くする。難しい人だ。

彼女の僕への当たりは強かったが、他の女子たちからは日が経つにつれ、好意的な視線を感じるようになった。休み時間や放課後になると、人が集まる。僕が勉強や魔法の能力が高いだけでなく、それらを教える事にも長けていたからかもしれない。先生の説明だけでは足りない細かい論点を補足してあげると、仲間達は目を輝かせた。女子たちが今日も教えて欲しいと、僕の机に寄ってくる。もっとも、その中にオリビアの姿が見える事は無い。

そういえばクラスメイトたちは、オリビアの事も天才だと言っていた。彼女の成績を見れば、きっと誰もがそう思うだろう。しかし僕には、そうは見えなかった。彼女が才能に恵まれているようには感じなかった。よく見ると結構失敗も多いし、不器用だ。覚えも遅いし、間違えやすい。それでもテストでは、僕を除けば1番だった。


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