別れが訪れるその日まで【番外編】

嫉妬と大好き

『あー、面白い。さすが紫苑君、猫の扱いが丁寧だねえ。よし、このモフモフな体で、もっと癒してあげよう。ほら、お腹撫でてみる?』
「あ、今度はヘソ天してる。そういえば昔もよくヘソ天してて、お腹を撫でてあげたら喜んでいたなあ……」

う、うん。そうだね。ボタはお腹撫でられると喜んでいたよね。
けどそれはつまり、ボタと一緒にお姉ちゃんのお腹を撫でるということであって……ああ、紫苑君の手が伸びていってるー!

「だっ……ダメー!」
『ふえ?』
「芹さん?」

咄嗟にお姉ちゃんinボタを抱っこして、紫苑君から取り上げてしまった。
だけどそんな私を、紫苑君が不思議そうな目で見てくる。

「いったいどうしたの?」
「ええと、これはその……紫苑君が、お姉ちゃんとばっかり仲良くしてるから……」

口にした途端、湯気が出るんじゃないかってくらい顔が熱くなる。

ああ、私ってば何をやっているんだろう。
紫苑君もお姉ちゃんもただ遊んでるだけなのに、嫉妬しちゃうなんて。

そもそも今日は、紫苑君とお姉ちゃんをちゃんと会わせるのが目的だったじゃない。
二人を遊ばせられたらいいなって思ったのは私なのに、いざ抱っこしたり撫でているのを見てると、お姉ちゃんばっかりズルいって思えてきて、ついあんな行動を取っちゃった。

だ、だって紫苑君、私のことは抱っこしたり、撫でてくれたりしないじゃない。
……もちろん、されても困るんだけどね。

するとボタの中から、お姉ちゃんがスポンと出てくる。

『あー、ひょっとして芹、ヤキモチ妬いちゃった? ご、ごめんねー』
「いや、これはその……ヤキモチとかじゃなくて……」
「ヤキモチ?」
「──っ!」

しまった。お姉ちゃんに返事をしたつもりだったけど、紫苑君にもバッチリ聞かれちゃってた。
ボタの体を借りたお姉ちゃんにヤキモチ妬いてたなんて、恥ずかしすぎるよー!

「な、何でもないから、気にしないで。そ、そうだ、私、ジュース持ってくるね」

早口でしゃべると、立ち上がって紫苑君に背を向ける。
何なのこの余裕のなさ。独占欲強すぎ!
自分でも重たすぎるって思うよー!
ううっ、紫苑君。こんな彼女でごめんなさい……。

いたたまれない気持ちになって、部屋を出ようとドアノブに手を掛けたその時──

「芹さん!」
「ひゃうっ!?」
『おおっ!』

信じられないことが起こった。
いきなり紫苑君が背中にくっついてきたかと思うと、首から前に手を回す、いわゆるバックハグをしてきたの!

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