いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
 咲乃は胸の中に気怠さが起こるのを感じていた。4月の新学期にこのクラスに決まってから、自分のスタンスは変わっていない。行動指針があって、達成すべき目標がある。ならば、このくだらない状況にも率先して介入しなければならない。

 咲乃が手を上げようとした時、別の席から声が上がった。

「先生、それじゃ安藤さんがかわいそうです」

 悠真の呆れた声に、教室中のだれもが驚いた。予想していなかった人物が安藤を庇ったのだ。高木の顔色が変わった。

「安藤さんは、十分真面目な子ですよ。この時期、授業が大事だってことは安藤さんだって分かってます。元はと言えば、安藤さんの気を散らした高木さんたちに非があるんじゃないですかね」

「悠真……っ! アンタ、何言って――!」

 突然矢面に立たされた高木の顔が、見る間に真っ赤になった。
 女子の中でも目立つグループにいる彼女は、クラスで何をしても絶対安全な地位にいる。もちろん、社交的で活発な彼女は、増田からの好感度も高い。普段の彼女なら、今と同じ状況にあっても増田からは深く責められないし、悠真も口出さない。

 しかし、今の悠真の目は、高木を許さないと言っていた。

「高木。ストレス溜まってんのはわかるけどさ、ちょっとやりすぎなんじゃないの? 安藤さんがかわいそうじゃん」

 くだらないと吐き捨てるような言い方に、高木はキッと目を吊り上げた。悠真に反発しようと口を開く。

「ふざけ――!」

「俺さ、人の陰口言ってメンタル保ってる卑怯な奴が一番嫌いなんだよ」

 高木の顔から血の気が引いた。開いた口が恐怖に震える。全身が戦慄き、口の中がカラカラに乾いた。

「……ごめん……なさい……」

 高木に、先程までのしたたかさはもう残っていない。
 怯えた表情をした彼女の謝罪が、小さく教室内に響いた。
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