エリート外交官はワケあり妻を執愛で満たし尽くす
 従業員としての感覚に縛られすぎて、そこは出入口なのだということをすっかり失念していた。

焦る気持ちを抑えてさりげなく人混みに紛れる。

 ついさっき使用した階段は北斗に近すぎて危険だ。だとするとエレベーターを使って上の階に戻ったほうがいいだろう。

 極力顔が見えないように床を見つめ、まったりとくつろぐお客様の中でも目立たないことを祈りながらエレベーターに向かった。

 お客様の談笑や、噴水から流れる水の心地よい音がだんだん遠くなっていく。

 あと少し、と思ったその時、後ろから低い声が聞こえた。

「また、逃げるのか?」

< 29 / 245 >

この作品をシェア

pagetop