エリート外交官はワケあり妻を執愛で満たし尽くす
 ごめんなさい、と言外にも込められなかった。

 私の本当の想いを悟られてしまえば、きっと彼を逃がしてあげられなくなる。

 だけど心の中では、胸が張り裂けてもおかしくないほど彼への謝罪と愛を叫び続けていた。

「……そうか」

 北斗が私に返したのはそのひと言だけ。

 誰が相手でも完璧なコミュニケーションを取り、ユーモアに富んだ会話で気に入られてきた彼が、たったひと言しか言わなかった。

 その意味を知って泣きそうになるも、より深く、強く手のひらに爪を立てて、さらに言葉のナイフを振りかざす。

「そういうわけだから、今日をもってあなたとの婚約は破棄させて」

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