麗華様は悪役令嬢?いいえ、財閥御曹司の最愛です!

 マンションを飛び出した私。さてどこに行こう。時刻はもう夜。
 正臣さんとの同棲を心から喜んでいた両親を思い出し、実家には帰れないと思い悩む。
 美世は婚約者と旅行中。急に頼れる友人は他にいない。
 幸い財布は持っている。出来るだけ遠くに行きたくなった。

 北大路のプライベートジェットを飛ばしたら、簡単に見つかるだろう。なるべく足がつかない方法で逃げてしまおう。

「空港までお願いします」

 私は、携帯で一番近い便の中から一番遠くに飛ぶ路線を予約した。


***


 ザッパーン

 冬の海でもエメラルドに輝き、美しい波が寄せては返す。
 風は冷たいが凍てつくほどではなく、真っ白の砂浜が心地よい。
 ぼうっと海を眺めながら、私は息を吐いた。

 昨夜遅くに沖縄についた私は、急いで民宿を予約して一泊した。おかみさんはとてもいい人で、何も聞かずにおいしいご飯をたくさん作ってくれた。「じゅーしぃ」と呼ばれる炊き込みご飯が絶品で、おいしくておいしくて自然と涙がこぼれ落ちた。おかみさんは温かいお茶を淹れて、ただただ沖縄料理の紹介だけをしてくれて。「ゆっくりしたらいいさ」と穏やかに笑った。

 今朝は沖縄そばを朝から食べて、腹ごなしに散歩していたら綺麗な浜辺が見つかったので座って波を見ている。かれこれもう数時間。身体が冷えてきたのでそろそろ移動しなければと思うのだが、どこへ行けば良いか思い悩んでいた。

 仕事は幸い今日は休みだ。明日はどうするか悩むが、今日だけは逃げていたい。

 レイラ様のように、ユナに婚約者をとられたということだろうか。こんなに胸が痛いのは、どうしてだろう。いつもの私なら、「婚約者がいるのに二人きりで食事をするなんて」とか「他に好きな人がいるなら同棲なんてすべきじゃない」と彼に説教の一つでも出来るだろうに、そんなことも出来なかった。

 ただただショックで。結奈との食事を隠されたことが、ショックだった。彼が結奈に笑いかけたことが、嫌で仕方なかった。

(そうか。私、正臣さんを独占したかったんだわ)

 正臣さんを私だけのものにしたかった。私と結婚して欲しかった。私を見ていて欲しかった。あの甘い微笑みは、私をすいてくれているんだと、あの優しいキスは義務感からじゃないのだと、信じていたかった。

 私はきっと、ずっと、正臣さんが好きだったのね。

 ストンと自分の気持ちに納得が出来た。すると、彼に会うのが怖くなる。
次に会うときは、レイラ様の断罪イベントのような状況なのではないだろうか。

『麗華、君は結奈をいじめていたんだね。俺の婚約者には相応しくない。婚約を破棄する!』

 そんなことを言われたらと思うと、身体がすくんで動かない。私らしくない。もっと正々堂々と発言したいのに。自分がこんなに臆病だなんて初めて知った。指先が冷たくなって、身体を丸める。枯れていた涙がまた湧いて出てきて、頬を冷やしていく。

 正臣さんに、会いたい。
 でも、会うのが怖い……。
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