麗華様は悪役令嬢?いいえ、財閥御曹司の最愛です!
 珍しく夜の接待や打ち合わせが無い日。私は定時に上がり、スーパーで買い物をしてマンションに帰宅しようとしていた。
 今日は正臣さんも早いはず。何か胃が休まるような優しい夕食を作って彼を労ってあげたい。そう思っていた。

 たくさんの野菜を持って歩いていたその時、車道の向こう側に、正臣さんが見えた。

「正臣さん?」

 何故こんなところに? 声をかけようにも少し距離がある。横断歩道は少し先だ。見失ってしまうだろうか。携帯電話を取り出そうとした、その時だった。

「正臣様〜!」

 待ち合わせをしていたのか、結奈が正臣さんに駆け寄っていった。他に人はいない。二人きりだ。正臣さんは、笑っている……。

 二人がこれからどこへ行くのか、次の瞬間正臣さんはどんな顔をするのか、もう何も見たくなくて、その場から走って逃げた。家に帰っても料理もする気になれず、私にとあてがわれた個室で一人うずくまる。

 どういうこと? 何故二人で出かけるの? 彼女のことが好きなら、どうして私と同棲を始めたの? 

 次々と浮かぶ疑問。レイラ様と同じで結奈に負けたのだというショック。憤り。悲しみ。悔しさ。そして、絶望。

 ああ、私はやっぱり──。

「ただいま」

 意外にも早い時間に正臣さんは帰ってきた。玄関まで出迎えることせず、部屋からも出ないでいると、彼が控えめにドアをノックしてきた。「麗華? いるの?」

「……はい。正臣さん、お食事は?」
「外で食べてきた」
「誰と?」
「得意先の人だ」
「どの得意先?」

 即答してくれない。西國グループの人とで、結奈もいたんだと正直に言ってくれたらいいのに。愛し合っていないからって婚約者がいるのに二人で食事に行くのはよろしくないと思う。だが、強く抗議する勇気が出ない。怒りなのか、緊張なのか、手が震える。

「麗華?」
「どうして? 何故言えないの?」
「あ……いや」
「やましいことがあるからでしょう? 言えないからよね? 私見ちゃったの。貴方と結奈さんが二人でいるところ。言ってくれなきゃ分からない。好きな人がいるならそう言えばいいのに。同棲なんてしなければよかった!」
「違う!」
「違わない! 義務感で結婚されても、悲しいだけよ!」
「!」
 
 手元にあったカバンを持つと、勢いよく立ち上がった。ドアを開け、正臣さんの顔を見ないまま玄関へと走る。

「麗華!?」

 エレベーターで一階まで降りるとそのままタクシーに飛び乗った。
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