危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる

 脅迫文を送ったのは、達也の元恋人だ。だからすみれと達也が別れさえすれば終わるだろう。身に危険が及ぶこともなくなる。だから片桐の手を煩わせる必要はない。

「父には、なにも知らない。私が勝手に消えたって言って。そうしたらあなたが責められることはないでしょう」
「…………」

 少し考え込んでから、片桐が手帳を取り出しメモに電話番号と連絡先を書いてすみれに渡した。どうやら仕事ではなくプライベートの連絡先らしい。

「なにかあったらここへ」
「ありがとう」

 すみれはその紙を大切にしまうと、片桐にもう一度別れを告げた。

 ──おそらくもう会うことはない。

「さようなら」

 自分に言い聞かせるように、片桐に告げる。
 我を通すならきちんと父に頼らず生きていくべきなのだ。そうすることでやっと自分の人生が始まる気がする。
 後ろは振り向いてはいけない。


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