危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる


葛藤  

 すみれを送届け、自宅に帰った蓮は激しく動揺していた。10歳まで両親と暮らした街。年に数回、たまらなくなった時にだけ帰る街。
 誰にも話したことがない。自分を引き取ってくれた叔父夫婦にも秘密だった。
 なぜそんなところにすみれを連れて行ったのか。

 人が自分の今いる状況が「普通」だと思っているのなら、おそらく気づいていないだけで幸せなのだろう。不幸の渦中にいる人間は自分を普通などとは思わない。
 そしてその普通は時に簡単に壊れてしまう。蓮がそうであったように、平穏な日常は失ってみると、もう二度と戻ることはないのだ。

 すみれの様子がおかしいことには気づいていた。その理由も。
 宝来正道、名前を口にするのもおぞましい男の下で働くようになって一年。

 この世で一番憎い男に顎で使われるのにも目的があった。

『娘の婚約に関するトラブルがあるからしばらく身辺に気を付けてほしい』
『トラブルですか?』

 宝来正道本人ではなく娘のトラブルだと言う。できうる限り有能に、従順に業務に徹したせいか、すっかり宝来正道は蓮に気を許している。
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