もっとドキドキさせて

急いで朝食と着替えを済ませると、彼は玄関の前で私を待っていた。

「お嬢様、車の用意ができております」

私の通う学校は少し特殊で、授業中も同じ部屋で執事が待機している。
だから、学校へは彼も一緒に来てくれる。


一緒にいる時間は長いのに、距離を感じてしまうのは何故だろう。






学校に着くと、すでに多くの生徒が席についていた。
時計を見ると、まだ時間に余裕がある。
ほっとして、椅子に座る。

「おはよっ」

「おはようございます」

クラスでも仲のいい、真璃(まり)ちゃんと、由梨亜(ゆりあ)ちゃんだ。

真璃ちゃんはいつも明るくて運動が得意。
由梨亜ちゃんはおっとりしていて、バイオリンが上手。
大好きな親友たちだ。

「おはよー…」
朝からテンションの上がらない私は、つい1日の始まりには似つかわしくない挨拶をしてしまった。

「なんだよー!元気ないじゃんか!」
真璃ちゃんのポニーテールが激しく揺れている。

「どうしましたの?もしかしてお身体が…」
由梨亜ちゃんは心配そうな顔で私を見つめる。

朝から2人を心配させちゃったみたい。
私は首を大きく横に振って
「またあの夢見ちゃって…」
と答えた。

2人はお互いの顔を見合わせて、困ったような表情をした。

「まあまあ、あたしが素敵な殿方を見つけてきてあげるから」
そう言って真璃ちゃんは私を慰めた。

「そういう問題ではない気がしますけど…」
由梨亜ちゃんは首をかしげている。

そんな話をしていると、ホームルームの始まりを知らせるチャイムが教室に鳴り響いた。
真璃ちゃんと由梨亜ちゃんは、お喋りを止める。

チラッと教室の後ろを見ると私の専属執事、(れい)が、姿勢正しく椅子に座っている。
その姿は落ち着いていて気品があって、しかもかっこよくて、たくさんの執事がいるこの部屋の中でも目を惹く。

過去の記憶も、こんな気持ちも、どこか行っちゃえばいいのに。
そんなことを考えながら、横目で怜を眺めていた。
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