「みんなで幸せになると良いよ。」
突然キスされた彼女と、後ろめたい僕は表情を失くしたまま少しうつむいた。

『…いきなりやね。やっぱ今日の君は変だ。』

怒るでもなく喜ぶでもなく、僕の行動を奇怪に思っている。

「そんな変なことかな…好きなひとに触れたいと思うことって。」

『段階を踏む紳士やと思ってたんやけど?』

何度も練習された台詞をいうように無駄な間をもたず見つめている。

「怒っとん?ごめん。忘れて、いまのこと。」

居心地悪そうに返した。

『怒ってるって言ってないのに謝らんといて。』

抑揚も感情もない一文。

でも、棒読みではなく落ち着き払った声。
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