「みんなで幸せになると良いよ。」
笑い声に混じる息を荒く吸う音、口で息をする音、
誰にも聞こえない強く打つ僕の胸の音、椿の胸の音。

『別れて欲しい。私は汚いよね、ごめんやで。…別れて。』

力強く一息で言い切った。
その声だけはっきりとした音になって僕の頭に入ってきた。

「僕こそ、ごめん。椿が…泣いてる理由も分からんし、ごめん。」

僕は「なんで?」という短い台詞も吐けず、ただ物分りのいい奴に成り下がった。
「別れても友達」そんなこという気もなかったけど、格好悪くはなりたくなかった。
十分格好悪いくせに体裁を気にしていた。

最期の一言はきれいで、嬉しくて、僕は泣いてしまいそうだった。

この言葉を思い出さなくなるのはいつくらい先のことなんだろう。

『ありがとうね。今まで、ほんまに…愛させてくれて幸せ…やったよ。ありがとう。』
< 60 / 266 >

この作品をシェア

pagetop