「みんなで幸せになると良いよ。」
目的地まであと1駅もないレールの上。

軽く握られた切符は汗をかいて猫背になる。

ふと黒い長い髪が振り向き、
きれいな顔がこちらを向いた。

口パクで『次、降りる?』と聞いている。

目をいつもより大きくあけ、頷いた。

彼女はきれいな顔の筋肉を一気にゆるめて、
阿呆面で右手の親指を立てた。

また口パクで『グッドジョブ!』と言っている。

僕は無言のまま、そこにある顔をぼうっと眺めていた。

少し間を置くとゆるんだ顔もいつも通り整い、
キッと僕の顔を睨み
『つっこめよ!』と明るい感じで言った。

それでも僕は愛想笑いもせず、
「あっ、ごめん」と返した。

黒い髪の美人は不思議そうにこっちを見ている。

車内アナウンスはいつもの調子で

僕らの目的地を告げた。
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