「みんなで幸せになると良いよ。」
はっとヒイラギは僕を見て申し訳なさそうに言った。


『彼女さんに悪いや。離れて。ごめん。』


僕ではなく、彼女に対する労わりと謝罪。

何もヒイラギには話してなかった。彼女が椿だったことも。

僕が逃げ出した日の少し前、ヒイラギと椿は顔見知りになっていた。
挨拶する程度だったけど、名前くらいは知ってる間柄。


「彼女なんてもうおらんよ。ずっと前に振られた以来、ずっとね。」


自分で恥ずかしそうに打ち明けると、『そぅ』とヒイラギは無駄な同情なんかしなかった。

柔らかい髪の香り、どうにかなりそうな香り。出来るだけ吸わないように顔を髪の毛とは逆の方向に向けた。

彼女が定期的な呼吸を繰り返すリズムで夢のなかへ誘い込まれる。



そのまま僕も、彼女も眠った。
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