茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「百子、入るぞ」

木嶋の騒動の1週間後の休日、ノックをしてからドアを開けた陽翔は、先客がいて目を見開く。先客がいることそのものは珍しくないのだが、まさか病院で出会うとは思ってもみなかったのだ。

「あら、久しぶりね、陽翔」

「……母さん。来てたのか」

陽翔は後ろ手にドアを閉め、ベッドの側に座る裕子に近づく。

「あら、未来の娘の様子を見に来て何が悪いのかしら? それに、何度か私は百子さんのお見舞いに来てるのだけど。陽翔と病院で会うのは初めてね。何なら健二さんと一緒に行ったこともあるわよ。百子さんのご両親ともお会いしたし」

(父さんが……? あの多忙な父さんが仕事の合間を縫って見舞いに……? 嘘だろ……?)

陽翔は目を見開いたまま裕子の言葉を聞いていたが、少しずつ彼女の言葉が飲み込め、大きく緩く息を吐いた。健二や裕子が百子の見舞いに来ているのは、明らかに百子に好意を寄せている証左でもあるため、胸の底から温かいものがこみ上げ、目の奥が熱くなったのだ。

「本当に……しょうがない子。助けることそのものは良いことなのに、百子さんはまた自分の力量を超えて人助けをしたのね……大方体が勝手に動いたのでしょうけど、前回のひったくりの件とは状況も何もかも違うのに……百子さんらしいと言えば百子さんらしいけど、目覚めない程の怪我をするなんて……言わんこっちゃないわ」

裕子の言葉は厳しいものの、裕子の両手は彼女の左手を優しく包みこんでおり、百子の左腕に埋没している点滴のチューブを見て眉を下げている。口ではああ言っているが、何だかんだ裕子は百子の心配をしており、陽翔は口元に穏やかな笑みを湛えた。

(母さんは素直じゃないな……でも、百子を心から心配してるってのは分かる)

このことを口に出すと、裕子が拗そうなので、陽翔は何も言わなかったが、裕子が目を見開いたので、思わずその訳を尋ねる。

「今……百子さんの手が少しだけ動いたわ」

「本当か?! 今までは俺と百子の友人と美香ちゃん……百子が助けた女の子にしか反応しなかったのに」

陽翔は思わず繋がれた手と、その反対側の百子の手を交互に見やる。すると右手の指先が僅かだが宙を引っ掻いており、陽翔と裕子は目を見合わせた。裕子が口を開く前に、裕子のポケットの中身が震えたため、彼女は百子を寂しげに見つめてから、素早く立ち上がった。

「陽翔、ちょっと電話に出てくる。百子さんをお願いね」

スマホの画面を確認した裕子は短くそう言うと病室を出てしまう。ドアが閉まったのを確認して、陽翔は百子の真っ直ぐな髪を撫でる。眠っていても髪は伸びるため、シーツに髪を広げて目を閉じている百子は、まさしく眠り姫そのものだった。陽翔は彼女の唇に吸い寄せられるように、口づけを落とし、そのまま額に、頬に、再び唇に、そして彼女の手の甲にも唇を寄せる。そして彼女の顔をじっと見ていた陽翔だったが、彼女の睫毛が震えたのを見て、思わず身を乗り出した。

「……! 百子! 俺だ! 陽翔だ! 頼む……! 目を……目を開けてくれ……!」
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