茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「百子が気づいてないだけで、疲れが溜まってたんだろうな」

百子は纏わりついていた違和感を無視し、陽翔の言葉に頷いた。そんな些末事よりも、写真を厳選する方が優先度は遥かに高いからだ。

「にしても写真、こんなにあったのか」

それぞれの身内だけの式だったとはいえ、テーブルに散らばる写真は、ざっと50枚はあるだろうか。この中から4枚だけを厳選するのは、中々骨が折れる作業に違いない。

「陽翔も一緒に選んで。私だけじゃ決められなかった」

手伝う旨を申し出るはずだった陽翔だが、百子に先を越されてしまった。それを誤魔化すべく、力強く頷いて彼女の額に口づける。そして自分の近くにある写真を幾つか手に取り、思わず口元を緩めた。

「百子はドレスも和装も似合うな。和装の方が俺は好きだが」

紋付袴に白無垢の男女の写真を手に取り、陽翔は神社での厳かな式を思い出す。雅楽を聞きながら神職に先導されている時も、二人で祝詞を聞いている時も、三三九度の杯の時も、陽翔はどぎまぎしながら百子の方をちらちらと見ていた。ドレスを着て前撮りしていた時よりも、百子は凛としており、所作も美しく、誰よりも気品があって麗しかったのだ。

「うん。私も和装の方が好き。ドレスみたいに色々種類は無いし、体型が多少変わっても着れるし」

百子が明け透けに現実的な物言いをするため、陽翔はソファーからずり落ちそうになった。

「そういうことじゃねえって……」

「冗談よ。半分ホントだけど。和装はドレスよりも体が締め付けられて苦しかったけどね。変な例えかもしれないけど、どこかの姫君になった気分だった」

百子は照れたように頬を染めながら、写真を選り分ける。結局は二人で写っている写真ばかり手元に残り、思わず顔を綻ばせた。

「いや、俺にとって百子は姫だぞ。礼儀作法も知ってるし、教養もあるし。どこぞの姫君でもおかしくないと思う……いや、百子の場合は正真正銘のいばら姫か」

百子が顔を上げると、陽翔の熱を帯びた黒玉に縫い止められた。真剣に返答されることは考慮の外だったために、彼女は熟れた柘榴もかくやと言うほど顔を赤らめる。

「……いばら姫? なんで?」

「百子は100日眠ってたからな。しかも俺のキスで目覚めてた……な? まるでいばら姫だろ? 俺のキスで目覚めたからには、もう永くは寝かせないがな」

あわあわと眼球をせわしなく動かしていた百子だったが、陽翔に抱きすくめられ、体温が陽翔と同じに染まる。そして日が暮れるまで、写真選びをそっちのけにして愛を語らい、愛を惜しみなく注がれたのだった。
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