茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
百子は青い顔をして、喉の焼け付く痛みを水で緩和させようとして、のろのろと台所に戻ったが、再び胃の腑がひっくり返り、結局トイレに戻ることとなった。菜種油を搾り取るように、胃の中身を空にしたのにも関わらず、ぐるぐると腹の中を蠢く不快感は一向に無くならない。

(……おかしいな。内科の先生は、胃が荒れてないって言ってたのに)

百子はベッドでしばらく横になっていたが、炊飯器のアラームが鳴ったのを見過ごすことができず、再び台所へと向かう。炊飯器を開けると、ご飯の甘い匂いが顔を直撃して、胃がぐるりと回りそうになったため、思わず息を止めながら、ご飯をタッパーに小分けにしていく作業を、やっとの思いで終わらせる。彼女はふらふらとソファーにたどり着くと、そこに体を沈めた。

(……お味噌汁も作りたいのに)

料理ができないことを悔やみ、うつ伏せになっていた百子は、玄関で鍵の開ける音が耳を掠めても、陽翔がバタバタとしながら百子を呼んでも、起き上がることができなかった。

「百子! こんな所にいたのか! 返事寄越さないから心配したんだぞ!」

切迫した彼の声に、百子はおもむろに寝返りをうち、か細い声で告げる。

「……おかえり、陽翔。あんまり大丈夫じゃない……」

陽翔は彼女の青い顔と、掠れた細い声に、彼女が返事を寄越さなかったことが頭から消し飛んで仰天した。陽翔は百子を抱き上げてソファーに座らせ、慌てて水の入ったコップを差し出し、台所に置きっぱなしだった百子のスマホを持ってきてくれた。

「ありがとう……」

声の調子がいくばくか戻った百子は、会社を早退して病院に行ったものの、特に異常が無かったと言われたこと、ご飯を炊いていたら胃の腑がぐるぐると回ったことを説明した。

「……吐いておいて異常がない、だと? そんなわけあるかよ。違う医者に行った方が良さそうだな」

全ての話を聞き終えた陽翔は、眉間の谷間を段々と深くさせたため、百子は慌てて付け加える。

「確かに胃がムカついてたけど、病院に行った時は吐き気は無かったよ。家に帰ってご飯を炊いたら急に気持ち悪くなっちゃって……誤診とかじゃないと思う。吐き気が酷くてしんどくなったから、味噌汁とかは作れなかったけど……」

百子はゆるく首を横に振ったが、目を見開いた陽翔が両肩をがっちりと掴んだために、目をぱちくりさせて陽翔と目を合わせる。
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