茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「……ただの同期……分かってる、分かってるさ。そうか、そうだよな……知らなかったのはお前だけだもんな……」

下を向いて何やらブツブツと言い出した陽翔を見て、百子は慌て始めた。

「えっ? どうしたの? 私、何か気に障ること言った?」

「……ああ、言ったな」

こちらを見ようともしない陽翔は低い声で肯定の意を示し、百子の狼狽は最高潮に達した。

「えっと……その、ごめんなさい。何が気に障ったのかは言いにくいかもしれないけど、私、は東雲くんを、信頼してるし、良かったら……教えて欲しい、かな。今朝もそうだけど、東雲くんとは、気まずいままに、な、なりたくないもの」

本音をあまり言ったことがない百子は、所々噛みながら発言する羽目になった。それでも美咲の言葉に背中を押されて、恥ずかしいが本音を言えたことに自分でも驚く。

「じゃあ言わせてもらうが、俺はお前をただの同期とは思ったことがない。お前と一緒のゼミにいた時から、いや、もっと前からかもだがな」

(え……そんな……)

百子は顔から血の気がさっと引くのを感じる。

「え……私達同期じゃないの……? 嘘でしょ、私ずっと同期だと思ってたのに……私は同期の関係よりも薄いってこと、なの……?」

陽翔は彼女の予期せぬ勘違いにポカンとしていたが、大きなため息をついてから彼女の両肩を掴んだ。

「違うそうじゃない! すまん、言い方が悪かった。同期なのは事実だが、お前だけは俺の中では特別だったってことだ」

(え……嘘……それって……)

百子は妙な勘違いをしたことと、違う想いがじわじわと心の底から広がってきて、2重の意味で顔を赤らめる。もっとも後者については勘違いの可能性もあるので、慌てて振り払ったのだが、何故かいつまでもついて回り、百子は陽翔に自分のほんわかした想いが筒抜けになって欲しくないと本気で祈った。

「だから……その、つまり……あー! くそっ! もう無理だ! 茨城……いや、百子! 嫌なら殴るなり突き飛ばせ!」

頬を染めた百子についに張り詰めた理性がふつりと切れた陽翔は、そう前置きをしたうえで彼女を抱きすくめ、その桜桃のような唇に、自分の唇を押し当てた。
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