茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「百子、本当に東雲さんと一緒になりたいのか。不安はないのか。何があっても協力して添い遂げる覚悟はあるのか」

百子はぎくりとしたが、なるべく率直に伝えることにした。

「不安は……無いと言えば嘘になるね……これから色々な困難を二人で乗り越えて行けるのかとか、また……裏切られないかとかもあるわ。でもこればかりは一緒にいないと分からないもの。それに、陽翔さんは私のことも、私の意見も尊重してくれてるわ。私も同じように、陽翔さんのことも意見も尊重したいの。お互いがお互いを尊重できたら、きっと困難は乗り越えられる筈よ」

母がその言葉を聞いて何故か目を輝かせる。むっつりと黙り込んで渋面を作っている父とは対照的だった。百子の反応を見て、陽翔が嘘をついていないことを父は悟ったのかもしれない。

「百子……お母さんは百子を応援する。百子が尊重したい人に巡り会えて良かったわ。しかも陽翔さんも百子のことを真剣に考えてるみたいだし」

「おい、千鶴(ちづる)! 私はまだ認めてないぞ! 馬の骨とかではないが、懸念はまだあるぞ」

今にも涙ぐみそうになっている千鶴に、父は狼狽しながら反論する。百子も千鶴も父の妙な発言に驚き、同時に首をかしげた。

「東雲さん、いや、陽翔さん。貴方のお父上は太一だね?」

今度は陽翔が目を剥く番だった。

「その通りですが……父をご存知なんですか」

「私は太一の同級生であり友人だ。君を一目見た時に、誰かの面影があると思ってたが……名字を聞いて確信した」

再びエアコンの駆動音だけが部屋を支配する。だがそれを破ったのも父だった。

「……その様子だと、君は百子に君の家のことを話していないのか」

陽翔は首を縦に振る。百子は思わず陽翔の方を向いたが、その顔は僅かながら蒼白を帯びており、百子は嫌な予感がわっと心の底から冷気を伴って現れたのを感じ取る。

「それなら百子との結婚を認める訳にはいかない」

「ちょっと、お父さん!」

千鶴が抗議の声を上げたが、父は片手でそれを制した。百子は陽翔が隠し事をしていることと、父がはっきりと反対するのを聞いて、驚きのあまり言葉が出なかった。

「もし認めるのなら、君がちゃんと家のことを百子に話したうえで、百子が太一とその奥様に認められてからだ。それを乗り越えたなら私も何も言うことはない。期限は百子の誕生日までだ。それまでに両方できていないのであればこの話は無かったことにしたい。百子が苦労する未来しか見えないからな」
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