茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
二人は恙無く水曜日と木曜日に有給を取ることができたので、陽翔の車で弘樹と同棲していた家まで行くことになった。二日続けて取ったのは、水曜日に元彼が休みで家にいる可能性を考慮したのだ。陽翔の家の使っていないダンボールを10個ほど車に積んで、百子は陽翔の運転する車の助手席に収まっている。百子は父親や親戚以外の男性の車の助手席に座るのは初めてで顔を赤らめていたが、元彼の家までの案内はすることができた。元彼の家の近くは駐車禁止の区画なので、念の為さして離れていないコインパーキングを使うことになった。

「ありがとう、陽翔……」

百子はダンボールを持って歩きながら陽翔に感謝の言葉を述べる。

「気にすんな。一人よりも二人の方が早いだろ」

エレベーターにダンボールを持って入るのは些か骨が折れたものの、通勤時間が終わったために誰ともすれ違わなかったのが救いである。エレベーターを降りて、そこからかつて住んでいた元彼の家までの短い道までの足取りが重たいのは、持っているダンボールのせいだとは思えなかった。鍵を回す音がやけに反響した気がするが、覚悟を決めてさっとドアを開けた。

(良かった……弘樹の靴がない)

胸を撫で下ろした百子は、まずはリビングに向かう。リビングに行かないと寝室に行けないからだ。だがリビングは百子がいなくなってからろくに掃除や片付けがされていなかったようで、床には服やら弁当の空の容器やらの入ったゴミ袋が散乱しており、歩きづらいことこの上ない。予想以上の散らかりように、百子はため息をついたが、百子の荷物の多い寝室に入ることにした。だがそこも床が見えないほど紙類が散らかっており、比較的平らな所に、持ってきたダンボールを組み立ててそこに百子の持ち物を詰めていく。

(陽翔の言った通りね。私の荷物がそのままだわ)

百子は床に散乱してある物を避けながら、お気に入りのコートやら化粧品やら、ノートパソコンやらを持ってきて陽翔に渡していく。最初は陽翔も彼女の持ち物を取りに行こうとしたのだが、彼女の持ち物を全部把握してる訳ではないので、彼は梱包する側に回ることにしたのだ。

(ん……?)

しかし百子は寝室のローチェストの引き出しを開けて固まってしまったので、陽翔はそっと彼女の側にしゃがむ。彼女の顔が青ざめていたのに気づいた陽翔は恐る恐る尋ねた。

「おい、どうしたんだ」

百子の視線の先はランジェリー類だった。どこに不安な要素があるのかが不明な陽翔だったが、百子が震えた声で呟いて不快感を顕にした。

「……これ、私のじゃない……!」

百子はそう言って、やや乱暴に引き出しを閉めたのだ。
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