恋はしょうがない。〜同僚以上、恋人未満〜
「私は芳本さんとは結婚はできません。この度の結婚は、なかったことにしてください」
沈黙がリビングを支配した。
——聞こえなかったはずはないのに……。
頭を下げ続ける古庄が、正座をする自分の膝を見つめながらそう思ったくらい、三人からは何の反応もなかった。
頭を上げるわけにいかない古庄は、そのままじっと時間が流れていく間を耐えた。
そして、ようやく静香の父親が口を開いた。
「式も迫っているのに、今になってそんなことを言い出す理由を聞いてもいいかね?」
想定していた当然の問いだったが、古庄は今ここで自分の想いをありのまま吐露するわけにはいかなかった。
「結婚できない事情があります。私の一身上の都合です」
これ以上のことは、何も言えない。古庄は初めから決意していた。
「その事情を聞いてるんだが?」
「もう招待状も送ってるんですよ?今更取りやめるなんて、冗談じゃありません!」
父親の問い直しに覆いかぶせるように、静香の母親の震える声が響き渡った。
「申し訳ございません。私の短慮が招いたことです。本当に心からお詫び申し上げます」
古庄はただただ頭を下げて、謝り続けるしかない。それでも、この結婚を白紙に戻すためにはどんなことでもするつもりだった。