「トリックオアトリート」ならぬ脅迫または溺愛! 〜和菓子屋の娘はハロウィンの夜に現れた龍に強引に娶られる〜
 やはりこの姿は恥ずかしい。
 お昼になっていったん奥へ下がる。

 昼食をとってから表へ出ると、美穂は普通の服に戻っていた。八百屋らしくエプロンをつけている。

「う、裏切り者っ!」
「体が冷えちゃったのよ。女性に冷えは大敵だから」
 美穂はへらへらと笑って答えた。

 たった一人でこんな目立つかっこうなんて。
 萌々香も着替えてしまいたい。が、母が「せっかく作ったのに」と落ち込む姿を想像するとそれもできない。
 萌々香はうんざりとため息をついた。

** *

 午後になると雨はあがり、客足が戻りつつあった。
 八百屋には順調に客が増え、美穂は忙しく接客している。

「ハロウィンにぴったりのかぼちゃまんじゅうはいかがですかあっ」
 萌々香は大きな声で待ちゆく人に呼びかける。

 和菓子職人の父がかぼちゃまんじゅうを作ったが、やはりハロウィンに和菓子はなじまないらしく、買っていく人は少ない。
 この仮装がむしろダメなのでは。
 呼びかけながら、萌々香はそう思う。

「いらっしゃいませー」
 必死に愛想笑いを浮かべて声をかける。が、通りがかった客は目をそらして足早に通り過ぎる。

 ほら、誰も目を合わせようとしない。
 商店街に来る客の全員が知り合いなわけではない。こんな大袈裟な仮装をした店員から逃げようとする人が居てもなんの不思議もなかった。

 萌々香が疲れて肩を落としたときだった。
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