「トリックオアトリート」ならぬ脅迫または溺愛! 〜和菓子屋の娘はハロウィンの夜に現れた龍に強引に娶られる〜
「どうせ来ないわよ。こんなもん楽しんだもの勝ちよ!」
 美穂は屈託なく笑った。
 萌々香には美穂の前向きさが眩しい。

「強いなー」
「商店街の娘に生まれた宿命よ。そんなに嫌なら、嫁にでも行けばやらずに済むんじゃない?」

「そんな相手いないよ。美穂は?」
「会社で気になってる人がいて、今度一緒にごはんいくの!」

「いいなー」
 萌々香は素直に羨んだ。萌々香の職場には女性が多く、出会いはない。

「ほら、笑顔! 今日いい出会いがあるかもしれないでしょ!」
「あるわけないよ」
 萌々香はがっくりとうなだれる。

 平日の商店街。訪れるのは買い物の女性がほとんどで、たまに老人男性が散歩をしているくらいだ。
「それにしてもすごい気合入った衣装よね。おばさんの手作り? 昔からすごかったもんね。天女? 和菓子店さんにぴったりじゃない?」
「この歳で着るときついよ」

「まだまだいけるって。ただ、こんなことして商店街が盛り上がるのかって問われると謎だよねー。仕事休んでまでさあ。この前の土日はけっこうお客さんが来たみたいだけど。いくらハロウィン当日だからって言っても平日なんだし」
「そうだよねえ」
 土日はむしろ仮装することなく手伝いをさせられた。

「近くになんかの工場ができるらしいじゃん? 少しはお客さん増えるかもね」
「だといいよね」

 生まれ育った商店街がこのまま消滅してしまうのはなんだかさみしい。
 だからこそこうして手伝っているのだ。

 ぱらぱらとやってくるお客さんは高確率で知り合いだった。
 子供のころからお店の手伝いをしているからだ。それは美穂も同様だ。

「あらあら、今日はお姫様なのね~」
 ほのぼのと萌々香たちを眺め、ときにはスマホでの撮影を頼まれる。

 一緒に撮りたいと言いながら自撮りの仕方がわからないというので、結局萌々香が操作して自撮りした。
 ご高齢の方からしたら、萌々香も美穂もかわいい孫の一人くらいの気持ちでいるのかもしれず、かわいがってくれる。それはうれしいのだが。
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