「トリックオアトリート」ならぬ脅迫または溺愛! 〜和菓子屋の娘はハロウィンの夜に現れた龍に強引に娶られる〜
「二人で散歩でも行ったら」
「そんなわけにはいかないよ」
「それはいいかもしれないな」
 美穂の言葉に、萌々香と男性が同時に答えた。

「ダメよ、かぼちゃまんじゅう、今日中に売り切らないといけないんだから」
 父がはりきって大量に作ってしまったかぼちゃまんじゅうだ。店頭に山盛りに積まれている。

「ならば全部私が買おう。それでいいな?」
「夕方に来た人が買えなくなっちゃうじゃないですか」
 とっさに反論する。

「だったら店を閉めるころに来て残りを全部買おう」
「そんな無茶苦茶な……」

「ここではゆっくり話もできない」
 男性はちらりと美穂を見る。彼女は心得たり、という顔でうなずいた。

「萌々香、商店街を案内してあげなよ」
「いいな、それは。こういうところには来たことがないんだ」
「だけど……」
「商店街に新しいお客さんを呼び込むチャンスだよ。っていうか、これが出会いってやつじゃない?」
 美穂はひそひそと耳打ちする。

「でも、お店が」
 萌々香が反論すると、
「おばさーん」
 美穂が店内に声をかける。

「萌々香、ちょっとでかけてきまーす!」
 貴子が出てきて、美穂と萌々香、男性を見比べた。

「そう、行ってらっしゃい」
 貴子は萌々香にそう言った。

「そんな!」
「行こう」
 男性に手を引かれてその場を立ち去る。

「美穂ちゃん、あの人は恋人なのかしら」
 貴子は少し困惑してたずねた。

「これからなるんだと思いますよ」
 にやりと笑う美穂に、貴子はあらあら、と呟いた。
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