「トリックオアトリート」ならぬ脅迫または溺愛! 〜和菓子屋の娘はハロウィンの夜に現れた龍に強引に娶られる〜
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萌々香は名前も知らない男性に手をひかれて商店街の中を歩く。
スタスタと歩いて行くので、案内もなにもあったものじゃない。裾の長い衣装とぞうりのせいで歩きづらく、ついていくのが精いっぱいだ。
「ちょっと待ってください!」
萌々香は男性の手を振り払った。
「なんだ」
男性は立ち止まって振り返る。
「どういうことなんですか」
「覚えてないのか」
「なんのことかさっぱりわかりません」
萌々香が答えたとき、男の子が男性の手をひっぱった。
「おまんじゅう食べたい」
男性はため息をついた。
「どこかにベンチはあるか」
「あちらに」
男性の問いに、萌々香は答える。
ちょっと先にベンチが設置されていた。その横には自動販売機もある。
彼はそこで男の子にお茶を買ってあげて座らせた。
「君はなにを飲む?」
「私はいいです」
「そうか」
彼は男の子の隣に座り、おまんじゅうを頬張る彼を見守る。
さきほどの威圧する目とは違い、優しいまなざしだった。年の離れた弟を見守る兄のようだった。
そんな顔もできるんだ。
意外に思いながら、萌々香は男の子をはさむようにしてベンチに座った。
「ご兄弟ですか?」
「違うよ。僕は若様のおめつけ役なんだ」
男の子が答える。
若様にお目付け役。
そういうごっこ遊びだろうか。
兄弟ではないなら親子だろうか。