「トリックオアトリート」ならぬ脅迫または溺愛! 〜和菓子屋の娘はハロウィンの夜に現れた龍に強引に娶られる〜
「おめつけ役って大変なんじゃない?」
 萌々香は男の子に話を合わせた。

「そうなんだよ。若様、すぐにいなくなっちゃうんだもん」
「それはお前だろう」
 男性があきれたように言うから、萌々香はくすっと笑った。
 彼はきまり悪そうに男の子の頭を撫でた。

 さきほどまでのきりりとした姿は威圧感があった。今は空気がほどけて居心地が良かった。

「この辺の方じゃないですよね」
「ああ。仕事で昨日からこちらにいる。龍天院尊琉(りゅうてんいんたける)だ。このちびは綿貫恵武(わたぬきめぐむ)
「桜庭萌々香です」
 答えながら、疑問に思う。こんなところに子供をつれて出張にくるような仕事ってなんだろう。

 平日の商店街にスーツの男性の親子連れは見たことがない。たまに営業らしきスーツの男性を見ることはあるが、やはり子供など連れてはいない。

 もう一度恵武を見た萌々香は、あっと小さな声を上げた。
「思い出したか?」
「はい……」

 夢の中で助けようとした男の子だった。
 ということはあれは夢ではなかったということだ。少なくとも男性と出会うところまでは。

 お酒のせいで記憶がおぼろになって夢とごっちゃになっていたのか。そんなに酒に弱かった覚えはないのだが。

「こいつが世話になった」
「いえ、結局私が助けて頂いて。ありがとうございました」
 頭を下げると、しゃらん、とかんざしが鳴った。 

「おねえさん天女なの?」
 恵武がたずねる。
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